猫の条虫症とは、条虫という内部寄生虫が猫の小腸に寄生し、ひどくなると下痢や嘔吐などを引き起こす病気です。条虫の体の一部や虫卵が猫の便に混ざって出てくるのが特徴で、それで異常に気づく飼い主も少なくありません。
猫にはどのような条虫が、どのようなルートで感染するのでしょうか。原因、症状、対策方法について詳しくご説明します。
原因
猫を終宿主(寄生虫が成虫となり、虫卵を排泄するために必要な生物)とする条虫が寄生して起こる病気です。
猫に感染する条虫は何種類もいますが、よく見られるのは「瓜実条虫」、「マンソン裂頭条虫」、「猫条虫」の三種類です。体はいくつもの片節というパーツがつながってできており、その一つ一つに生殖器官があるのが特徴です。猫の体内に入ると、小腸の粘膜にくっついて栄養を奪いつつ、幼虫から成虫となり、虫卵を作って排泄します。
いずれも中間宿主(幼虫時などに一時的に寄生する生物)が必要で、三種類の条虫はそれぞれ中間宿主となる生物が違います。
三種類の条虫の特徴と感染経路について詳しく見ていきましょう。
瓜実条虫について
瓜実条虫の中間宿主はノミ。体は瓜のような形をした片節が長く連なってできており、成虫は最大50センチほどになります。
頭部には四個の吸盤と鉤がついています。小腸の粘膜から栄養を奪いつつ成長し、片節の中に虫卵を作ります。ただし片節には産卵孔がないため、虫卵が入った末端の片節を切り離して、猫の便とともに排泄します。猫が感染してから片節が排泄されるまでの期間は10日から半月程度です。
排泄された片節は便の表面でしばらくもぞもぞと動き、乾燥すると動かなくなります。その姿はまるで白ゴマのようで、便の上でとても目立ちます。片節は乾燥すると壊れ、中の虫卵が外に放たれます。その虫卵をノミが食べ、感染したノミが猫のグルーミングのときなどに口に入って感染が成立します。
また、片節は猫の肛門周りに残ることもあります。もぞもぞと動く片節のせいでお尻がむずがゆく、猫はお尻を床にこすりつけたりします。肛門周りの片節は乾燥するとぽろぽろと床に落ち、猫の生活環境中にまき散らされていきます。
マンソン裂頭条虫について
マンソン裂頭条虫には二種類の中間宿主が必要です。一つはケンミジンコ。そしてケンミジンコを食べるカエルです。体はきしめんのように平べったく、成虫は最大2メートルほどになります。
頭部には吸溝という寄生体にくっつくための器官があります。吸溝を使って小腸の粘膜にくっつき、栄養を奪って成長したのち、産卵孔から虫卵を産みます。虫卵は腸管内にばらまかれ、猫の便とともに排泄されます。感染してから虫卵が排泄されるまでの期間は5日から10日程度です。なお、成虫が排泄されることもあり、猫の肛門から複数の片節がぶら下がっていることもあります。
虫卵は水中で孵化して発育し、ケンミジンコを経てカエルの体内で成長します。そのカエルを猫が捕食することで感染が成立します。
猫条虫について
猫条虫の中間宿主はネズミ。体はいくつもの片節が連なってできており、最大60センチほどになります。
頭部には四つの吸盤と鉤がついており、小腸の粘膜にくっついて栄養を奪いつつ成長します。片節の中に虫卵を作りますが、産卵孔がないため、虫卵入りの末端の片節を切り離し、猫の便とともに排泄します。片節は乾燥して壊れ、中から放たれた虫卵をネズミが食べ、さらにそのネズミを猫が捕食して感染が成立します。感染してから片節が排泄されるまでの期間は30日程度です。
症状
ほとんど無症状です。ただ、多数の条虫に寄生されると、腹痛、下痢、嘔吐、食欲低下、元気消失といった症状が現れます。さらに、本来猫が吸収するはずの栄養分が条虫によって大量に奪われることで、栄養不良も見られます。
また、条虫の成虫や片節が肛門付近に排泄されることもあり、その場合、成虫や片節が動くことでむずがゆくなったり違和感を覚えたりして、猫がお尻を床にこすりつける動作をすることがあります。
対策
条虫は駆虫薬で退治できます。薬剤は首の後ろに垂らすスポットオンタイプ、錠剤、注射などがあります。なお、マンソン裂頭条虫は他の条虫に比べて圧倒的に大きいため、薬剤を多く使用しなければ退治できません。
また、瓜実条虫の場合はノミ駆除も同時に行う必要があります。猫にはノミの駆虫薬を使用し、室内のノミの成虫や卵、さなぎは掃除や洗濯を徹底し、場合によっては専用の駆除剤を使って一掃します。成虫や卵、さなぎは掃除機の中で生きている可能性があるため、掃除のたびにゴミを取り出して袋に入れ、厳重に縛ったうえで捨ててください。
条虫症は、中間宿主を食べさせないことで予防できます。家と外とを行き来する猫の場合、ネズミやカエルを捕食する機会が増えるため、できれば完全室内飼育にしましょう。どうしても猫が嫌がる場合は、定期的に動物病院で検査を受け、条虫が見つかればすぐに対処してください。また、家と外とを行き来する猫、室内飼育の猫どちらも、ノミの予防を定期的に行うようにしましょう。
猫の条虫症は人獣共通感染症です
瓜実条虫は猫だけでなく人間にも感染します。例えば、瓜実条虫に感染しているノミをつぶしたとき、その体内にいた幼虫が人間の手につき、その後経口感染することがあります。また、幼児が床などをなめたときに、そこにいたノミを取り込んで感染することもあります。幼児の場合、腹痛や下痢といった症状が出ることもあるので注意が必要です。
人間への感染を防ぐためにも、猫の条虫症は早期発見・早期治療するようにしましょう。猫の便や肛門周辺に片節、虫卵がついていたら、すぐにそれらを採取して動物病院で相談してください。
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