猫の心内膜炎は、何らかの原因で細菌が血液に侵入した結果、心臓の中にいぼ状のものができる病気です。猫では稀な病気ですが、いぼによって血流が障害され、全身がダメージを受けます。特に先天性の心臓疾患を持っている猫は発症の可能性が高まるため、注意が必要です。
猫の心内膜炎の原因や発症のメカニズム、症状、対策についてご説明します。
原因
血液中に侵入した細菌が、心臓の内側の膜(心内膜)や弁膜、心筋に感染して起こる病気です。敗血症の一つで、心臓だけでなくやがて全身に障害が及びます。
細菌は心内膜や弁膜などに付着して増殖し、その部分には疣贅と呼ばれるいぼ状の塊ができます。弁膜は心臓の部屋と部屋の間(右心房と右心室、左心房と左心室)や、その部屋と肺または全身をつなぐ血管との間にある、血液の逆流を防ぐ門のようなものです。その弁膜に疣贅ができると、弁膜が変性したり破壊されたりして血液が逆流します。
弁膜の中でも僧帽弁や大動脈弁に疣贅ができやすく、そこで逆流が起きると全身に十分血液が送られなくなり、うっ血性心不全を起こします。
さらに疣贅の一部がはがれ落ちて血流に乗り、他の臓器の血管に詰まって塞栓症を起こすなど、全身に悪影響を及ぼします(大動脈血栓塞栓症)。
細菌の種類と侵入方法
心内膜炎の原因になりやすい細菌は、連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌などです。それらの細菌は、抜歯など歯の治療時や内視鏡検査時などに、傷ついた粘膜から血液中に侵入します。
心内膜炎が起こりやすい条件
心内膜炎は先天的に心臓疾患がある猫に起こりやすい病気です。心臓疾患があると、心内膜などに傷ができやすく、侵入した細菌がその傷に付着して増殖します。
症状
心内膜炎になると発熱したり、元気や食欲がなくなったりします。さらにうっ血性心不全や塞栓症の症状が現れます。
うっ血性心不全や塞栓症の症状、併せてそれらが発症に至るメカニズムをそれぞれ見ていきましょう。
うっ血性心不全の症状
僧帽弁や大動脈弁といった弁膜に疣贅ができることで、心臓が全身に十分な血液を送り出せず、うっ血性心不全や、心不全が原因で肺水腫の症状が現れます。主な症状は以下の通りです。
- 息切れしやすくなる
- 倦怠感
- 運動したがらない
- 元気がなくなる
- 食欲がなくなる
- 咳が出る
- ゼーゼーと喘ぐように呼吸をする
- 呼吸困難
僧帽弁は左心房と左心室の間を、大動脈弁は左心室と大動脈の間を仕切っています。肺で酸素を取り入れた血液は、まず左心房に入ります。そこから僧帽弁を経て左心室に移動したあと、大動脈弁を経て大動脈から全身に送り出されます。
僧帽弁と大動脈弁が破壊されると血液の逆流が起き、その結果、肺から心臓に血液が移動しづらくなっていきます。血液の循環が滞ることで、猫はすぐに息切れしたり、疲れやすくなったりします。
移動しきれなかった血液は肺の中にたまり(うっ血)、その血液から漏れ出した水分が肺胞にたまって肺水腫になります。酸素交換を行う肺胞に水分がたまることで呼吸がしづらく、ゼーゼーと喘ぐように呼吸をしたり、呼吸困難に陥ったりすることがあります。
塞栓症の症状
疣贅の一部が血流に乗って、他の臓器の血管を詰まらせ、大動脈血栓塞栓症になることも少なくありません。猫では腹部の大動脈の最後の方、後ろ足に向かって分岐する辺りで血管が詰まることが多く、その場合、以下のような症状が現れます。
- 突然後ろ足がマヒする
- 強い痛みのせいで叫んだり暴れたりする
- 呼吸が速くなる
- 肉球の色が悪くなる
- 足先が冷たくなる
- けいれんする
先ほどまで元気だった猫が、急にマヒなどの症状を起こすのが特徴です。足先の体温の低下や肉球の色の変化は、後ろ足に血が通わなくなることで起きます。大動脈血栓塞栓症の症状が見られたら、動物病院での一刻も早い処置が必要になります。
対策
原因である細菌に対抗するために、最低でも六週間、抗生物質を投与します。うっ血性心不全を発症している場合は、心臓の負担を減らすために血管拡張剤や利尿剤の投与、酸素吸入などの対症療法を行います。
大動脈血栓塞栓症を発症していれば、内科的に血栓を溶かす薬を投与したり、外科的に大動脈に詰まった血栓を取り除いたりします。早く治療を行わないと、血栓によって血が通わなくなった部分の細胞はどんどん壊死していきます。
心内膜炎を予防するには
猫に先天的な心臓疾患がある場合、血液中に細菌が侵入するような治療を受けさせるときは、必ず獣医師に疾患について相談し、抗生物質の投与など予防措置を講じてください。
また、歯の治療時にも細菌感染の危険性があるので、日頃から猫のデンタルケアに努めることも大切です。
猫が発熱して元気・食欲がなければ動物病院へ
心内膜炎には特有の症状がありません。そのため、状態がひどくなるまで気づきにくいといえます。ただ、心内膜炎になると発熱が見られますので、猫に元気や食欲がなく、体を触ってみていつもより熱いと感じたら、念のため動物病院で診てもらいましょう。
特に心内膜炎が原因で起こる大動脈血栓塞栓症は、一刻も早く治療しないと命に関わります。
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